れに倣いまして、わずかに現在残って居る在来種の玉子のみ集めてカステラその他に用いますが、この玉子ならば少しも着色の必要がありません。
また、カレー・ライスに用いる米であります。これには古来食通の推称する白目種が実に適当して居るのでありますが、此種類は収穫が甚だ少ないため、まさに滅種[#「滅種」は底本では「減種」]せんとして居りましたので、これを二割高で引取る約束でようやく栽培して貰って居るのであります。
かかる細かい注意も個人商店にして初めてなし得る所でありまして、大衆向の百貨店には行い難いことであると思います。
販売の均一
商売はその種類により、季節により、また晴雨その他のいろいろの事情によって繁閑がありますので、販売高を毎日平均せしむる事は不可能でありますが、経営上の理想と致しましては、毎日平均の売行きを望むものであります。この点においては百貨店は実に都合よく経営されて居りまして、日常生活の必需品がことごとく取揃えてありますから、一年中を通じてほとんど平均の売上げを致して居ります。
しかるに一般の小売店は、その販売する品種が二三に限られて居りますので、春に忙しい店は、秋は淋しく、夏向きの店は、冬は休業同様であります。これでは百貨店対抗は難しい事でありますから、私も何とかして販売の均一を計りたいと思いまして、以前はパンのみを売って居りましたがパンは夏期は盛んに売れますが、冬期にはおよそ半額に減じますので、この不足を補うために、夏に少なくして冬に大いに売行きのある餅菓子を併せて売る事と致しました。それからつぎつぎと洋菓子、支那饅頭、チョコレート、牛乳、水飴等と多数のものを売る事と致しました結果、今日では四季を通じてほとんど平均の売上げを見るようになりました。就業時間は百貨店と同様でありますが、販売員一人当りの能率は、著名な百貨店のそれよりも立ち勝ることとなりました。
広告
それから広告でありますが、私は広告はあまりしない方針であります。先頃広告研究会から、私に話に来いと云われましたが、その返答に迷惑したような次第であります。
広告はその店の存在を示し、また新発売品等の宣伝等には欠くべからざるものでありますが、広告費のかさむために、商品の販売価格を引上げなければならないようなことは絶対に避けねばなりません。
元来米国の如く、境域広大であって建国の歴史なお若く、いわゆるシニセ(老舗)のなき所に在っては、店の存在を示す手段として、広告に頼るほか途がありませんから、米国人は広告に力を入れること、実に世界第一であります。しかし、英国や独逸、仏蘭西の如き、古き歴史を持つ国に在っては、信用ある店は広告を致しませんでもよく売れますので、それだけ品質に値段に勉強致しまして、広告費としては経営費の極めて小部分を割くのみであります。
我が日本では、とかく米国を真似る傾向がありまして、広告の如きも、米国に次いで世界第二であると聞いて居りますが、私はむしろ欧州に学ぶべきだと思います。
広告好きの米国に在っても、チェン・ストアは、広告費を非常に節約して、売上高の千分の四に止め、米国百貨店の千分の三十二に対して僅かに八分の一にすぎないのであります。今日チェン・ストアが百貨店を圧倒するかの如き勢いあるのも、決して偶然ではないのであります。
私の店の広告費も売上高の千分の四で、我が国百貨店の約五分の一であります。
配達料
先ほどどなたかのお話に、京都では百貨店対抗策として、共同配達の方法を講じたとの事でありましたが、私の所では店売のお客様との釣合を考慮し、また配達費の意外に莫大なる点に鑑みまして、遠方の御注文には配達料を戴くことにしてあります。これには御得意様の中にも「中村屋だけが配達料を取るとは怪しからぬ」と申される方もありますが、私の店のような安い商品を東京市中無料配達を致しましては、売上げの三割も配達費に失われ、とうてい商売は成立ちません。彼の百貨店の如く八方へ配達網をもってしましても、その配達費は意外にかさみ、三越で一戸当り三十二銭、松屋で四十銭と承りました。私の店ではおよそ五十銭となります。
そこで、私はこれが対抗策を考究致しまして、配達料として電車賃の十四銭(但し五円以上は無料)を戴くことに致しました。配達実費の三分の一にも足りませんが、その結果は意外によろしく一円以下の小口の御注文も二、三円に改まり、過半は五円以上となりまして、一戸当りの御注文平均七円を超え、売上金高に対しての配達失費は百分の六に減じました。これを三越の百分の八(売上一戸当り四円)松屋の百分の十(売上同上)に較べかえって格安となっております。
以上、申し述べました事は百貨店対抗策の一端に過ぎませんが、要するに小売商人が
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