かけて行って、露西亜料理や露西亜菓子を味わい、初めてそのうまさに驚いた。すなわち喫茶部開設に当って、カリー・ライスに対し露西亜のスープであるボルシチュを加えることにしたのである。
 エロシェンコは常にルバシカを着ていた。我々はそれを見て洋服よりもはるかに便利でかつ経済的であることを知り、店の制服として採用したのであった。有名なトルストイ伯も常にルバシカを愛用したと聞いている。
 今日でこそルバシカは珍しくもないが、中村屋で採用した当時はずいぶん目に立ち、ロシヤ服を着ているという廉《かど》で店員が警察に引き立てられたことなどもあった。
 エロシェンコの退去問題で警察と中村屋の間に一騒ぎあったことは「黙移」にも記されているが、私もまたここに自分のおぼえを書いておこう。それは大正十年五月のことである。警察が私の家からエロシェンコを引き立てようとした時、私は彼の保護者としての立場から当局と折衝して、『今日はすでに日没後でもあり、かつ行政処分は夜中に執行すべきものでもないから待ってもらいたい。明朝八時、私が彼に付き添って警察に出頭します』と保証したにもかかわらず、警察ではその夜の十時過ぎ、三十二
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