に、あらまアどう致してといひたるを聞き付け、では御世話を下される思召なのですか、が単に世話をして遣らふとは御冷淡ですな、殊更あなたにお世話を願ふ意中を少しはとなほも語調を進めて巧みに花子の心を操縦せむとする時、ウーンといひて直之輔の寐返りたるに驚き甲田は笑ひに紛らしたりしが、その後いかの話にか成行けむ。軒端に騒ぐ颯々たる木枯らしの風と、次の間に残肴を争ふ鼠の足音は、時々その寂寞を破りたるのみ。
その三
お嬢様桜井様のお嬢様がいらつしやいましたよ、奥様へ申し上げましたら、あなたへ申し上げろとおつしやいますが、どちらへお通し申しませうと、下女の詞を半ば聞かず。ヲヤ桜井さんがいらしつたとへ、まアどうしやう嬉しいネー、私がお出迎へ申して来るから、お前は少しここを片付けて、そしてお母ア様へさう申し上げて、何かおいしいものをとつて来ておくれと君子は忙しげに出で行きたるが、年頃仲よき友達とて、坐に就く隙ももどかしげに玄関より語らひながら入来りぬ。
マアよくねー、近頃はちよつともいらつしやらないから、どうなすつたかとお案じ申しててよ。さうたいへん御無沙汰を致しましたネー。つい家の事を手伝
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