の上に肱かけぬ。君子はそれにて始めて会得したらむやうに、ヲヤあなたお加減がお悪いの、道理で今日は、何だか変だと思ひましたよ。それではまたゆつくり伺ふ事にして、今日はもうお暇といたしませう。実はネ、今日はあなたによく伺つた上で、御相談したい事があつて、上つたのですけれど、お加減が悪くてはいけません。どうぞ直ぐお横におなりなさいまし、いづれまたちかぢかに伺ひますからと口には他日を契れども、心はいつもの如く花子が引留めて、いいから話していらつしやいよといひくるるならむと思ひの外、これはいかなる事やらむ、花子は少しも留めむとはせず。ソーせつかくいらしつたのにネーと義理にも搆ひませぬとはいはず、我から立ちて玄関へ送り出るもそこそこに、君子が下駄穿き終りし頃には、はやバダバダと奥の方へ駈け込みし不思議に、君子は驚きて振り向きぬ。

 甲田は最早時機到来、次回君子の家をおとづれたる時には、いかにもして好機を見出し、少しく我が意中を傾潟してみむ。おそらく掌中の玉たるを失はざらむ。しかして君子の意思一度我に向へるを。隠微の間にだも認むるを得なば、さてこそ全くしめたものなり。多日の焦思を癒すもはやちかちか
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