ころでなしと、いつそう詞を進めて、なほも委しく問ひかけぬ。さうそれであなたもお心易くなさるの。いいゑ、心易くといふ程でもありませんが、ついお茶のお給仕なんぞに出される事があるもんですから、それで分つてきましたよ。何がです。その御気性がですサと君子はどこまでも平気なり。花子はいよいよ胸躍らせソーといひたるまま、何事をか深く考へゐる様子なり。君子は少しもそれに気注かず、何ですとネーあの方も奥様のお在りなすつた方ですとネー、花子は耳に入りしや否や、無言のままに打沈めり。どういふ御都合で御離縁になつたのでしやう、あなたそれ御存知なのと君子は再び花子に問へど、花子は依然無言なり。君子は更に詞を継ぎて、エあなた御存知でしやう、エとしばしばいはれて心付きしにぞ、花子はものいはむもうるさければにや、存じませんよ私はと素気なくのみいひ放ちぬ。ソー、でもあなた御存知の筈じやアありませんかと、お兄様のお友達だと、いつか仰しやつたじやありませんかと、これはまた是非聞きたげなるがいよいよ訝しく、さてはそれかと思へば思ふほど、唇重く頭痛みて、今は得堪ぬまでになりしかば、花子は右の手にて額を押へながら、傍に在りし机
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