と私の兄の友達で兄よりはずつと前に大学を御卒業なされた文学士、甲田美郎さんといふ方ですよ、いふをもまたず鈴子のそれそれ私の申さぬ事か、やはり御存知なんでしやうとからかひかかるを君子は制し、それであなたも御存知なのと、再び談話の緒を引出されて、ハア知己《ちかづき》といふでもございませねど、兄の家へ時々いらつしやるものですから、お眼にかかつた事はありますの、ちよつと見るとにやけな風の方で、大変気取つてるやうに見へますけれど、あれでもつて大変学者ですとサ、兄なんぞはしよつちゆうさう申してますよ、一口に学士といつても、甲田さんなぞは確かに博士の価値があると、ネ、妙でしやう、ほら新聞の広告なんぞにも、文学士甲田美郎君著述ツてたくさん出てませうと次第に乗地になりかかるに、君子はニツと笑ひかけしがわざと真面目に、道理であなたにばかし、注目していらツしやると思ひましたよ。アラほんとにお人の悪い、さんざん人にいはせておいて、そんな事をおつしやるとは、――宜うございますよきっと覚へていらつしやいと、花子は額にて君子を睨《にら》め、白くなよやかなる手にて、軽く君子を打つ真似はしたれど、どこやらに嬉しさうなる
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