よ、旦那の方の味方からいはせれば、さう申すでしやうが、奥様の味方にいはせれば旦那が浮気でとうとう見捨ててしまつたんだと申しませうよ。その中間をとるとして見ても、あんまり安心な御縁とは思ひませんよ。さういふ先例があつたとして見ると、よツぽどお考へものですネーと君子はとかく案じ顔なり。花子は深く心に許す処ありてや、なかなかに首を傾けず、それは私も全く案じぬでもございませんが、ただ今は奇麗な身躰、真実の独身に相違ないと申す事を、兄も信じておりますし、それにこんな事を、自分の口から申すのはなんぼ友人のあなたにも申しにくい事ですけれど、実は先方より私をとのたつての懇望、でも兄は少しその辺を気遣ひましたから、二の足を踏んでゐたのですが、先方では一生見捨てぬといふ証文でも書かうと申す事で、もし見捨てた節には五千円の違約金を出さう、その証書には親族にも、連署さしてもよいとまで申してゐるのですから、減多な事はございませぬといへど君子はなほ案じ顔、そこがさア男の心と秋の空でうつかり御安心は出来ませぬよ。気の向いた時は田も遣らう、畦も遣らうと申しませう、が御結婚なすつた后は、どうしても女は弱身になると申す事
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