ふ汚穢なる罪名を付せらるるの、残念なる次第に立到つたのです。実にまるで誣告されたんです、不当なる判決を下されたんです、立派な冤罪に逢つたんです』
 はなはだしく憤慨して腕を扼し、思はず高声にいひ放ちしが、辺りに佇める押丁と顔見合せ、さすがに口を噤みたり。弁護士殿は、やをら巻煙草の灰をはたき、
『ふふむ、さうか、委託物費消か、いやよくある奴だ』
 少し冷やかなる調子なりしが、理性は前刻の、卓論を繰返して黙するを許さず。
『まあいいさ、さう怒る事もない。軽罪だから直き出られるさ。最長期としたところで知れたものだからな』
 少年は勃然として、弁護士の顔を見上げ、
『三年です、その人に依つては、長くもない時日でしやう。だが一日の破廉恥罪と、十年の国事犯罪とは、あなたはどちらをお取りになりますか。父はいやしくも郷里では、県会の副議長にも挙げられた人間です、地方の政党幹事をも、遣つてゐた人物です。そして初期の衆議院には、いくばくの国民を代表した代議士であり、のみならず僕の家は、近県に誰知らないものはない、数百年連綿の旧家です。その士、その家の主人が、破廉恥罪の名によつて、今後三年を囹圄《れいご》の
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