を遺《わす》れて、黄金光暉の下に拝趨す。それ黄金は士気を麻痺するの劇薬、名節を変換するの熔爐なり。今の士相率きひて、媚を権門に納《い》れ、※[#「肄」の「聿」に代えて「欠」、第3水準1−86−31]《かん》を要路に通ずるは、その求むるところ功名|聞達《ぶんたつ》よりも、むしろ先づ黄金を得んと欲するの心急なればなり。その境遇や憐れむべし。その志操や卑しむべし。しかるに天下一人の、これが頽《くづれ》を挽回するの策を講ずるなし、かへつてこの気運を煽動し、人才登用を名として、為に門戸を啓き、名望あるの士を迎へて啗《くら》はしむるに黄金をもつてし、籠絡して自家の藩籬に入れ、もつて使嗾に供せんと欲す。ああ銅臭、否鉱毒の感染するところ、士の高節清操を糜爛せしむ。あに慨歎に堪ゆべけむや。いはんやその弊害の及ぶところ、ひいて世運の進歩を妨げ、国威の拡張を障《さそ》ふる事、決して浅少にあらざるをや、速やかに眼前に横たはるの蠧賊《とぞく》を除き、士風の萎靡を振ひ、社会の昏夢を警醒せんと欲し、斬奸《ざんかん》の策を決行す。伏して惟《おもんみ》るに先生の盛徳実にこれ国士無双、謙譲もつて人を服し、勤倹もつて衆を率
前へ
次へ
全50ページ中47ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
清水 紫琴 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング