たやうに手を叩き、氷と、そして何かお肴をと急に小女にいひ付くるも、現金なる主人振なり。中井はしめたと腰据えて。
『実はその何でございます。名前は少し申し上げかねますが、さる新華族様の若殿が』
『ふむむむむむ』
と冒頭第一、気受けよき様子に、中井はいよいよ乗地になり
『実はその若殿様と申すは、御養子様なんでいらつしやいますが。その奥方のお姫様と申すが、まだ十五のおぼこ気ばかりではなく。一躰にちと訳のある御|性質《たち》で、とても奥様のお勤めが、お出来あそばさぬと申すところから。そこは通つた大殿様、新華族様だけにお呑込みも早く。乃公《おれ》に遠慮は要らぬから、奥の代はりになる者を、傍《そば》近く召使ふがよいと。さばけた仰せに若殿様も、御養子のお気兼なく、お心のままと申す訳になつたのでございますが。さてさうなつて見ますると若殿様も、うつかりしたものをお邸へ、お呼びとりになると申す訳に、参りませぬと申すのもさういふ訳でございますから、奥方は表向きのお装飾《かざり》物ばかり、内実はそのお方が、御同族方への御交際向きから、下々への行渡り、奥様同様のおきりもりを、あそばさねばならぬ訳でございますから
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