より、これをさへ押収しつ、絶えてお糸に示さざれば、お糸は少しもこれを知らず。されどこなたには未練なき庄太郎に、これまで女の道といふ一すじにのみ繋がれ居たるなれば、この上は父の斗《はか》らひに任せて、我はいづれにもあれ、外へは嫁付《とつ》かず、一生独身にてくらし身を清らにさへ持ちたらましかばとそれのみ心に念じ居たり。
知らぬ庄太郎は、我より幾通の手紙遣りても、そよとの返事もなきはいよいよ心変わりに極まつたり、いでいでと我が身分を打忘れつ嫉妬に駆られて夜毎にお糸の方へ至り、内の様子を窺ひ居ぬ。
ある夜重兵衛はお糸と膝を突合はせての話し声、
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どうも困つたなア庄太郎が男のやうでもない、女房の里から離縁を申し込まれて、酢の蒟蒻《こんにやく》のと離縁をしおらんじや。でもどうしても私は離縁ささねば置かぬ。それもお前に未練の気があればともかくもじやが、嫌な男に操を立てて、それで身を果たさせてはわしの役目が済まぬ。お前は覚悟の上でも世間が私を譏るからの。
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勝手知りたる裏口の戸に身を忍ばせ居たる庄太郎、障子に映る二人の影の、密接しゐたるさへ快からざ
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