年七歳なるが学校より帰り来り、
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 ヘイお母アさんただ今。
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 おとなしく手をつかゆるを、お糸は見て淋しげなる笑ひを漏らし、
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 おおえらい早かつたなア、もうお昼上りかへ。
 ヘイお昼どす。
 そんなら松にさういうて、早うお飯喰べさせてお貰ひ、お母アさんも今行くさかい。
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 お駒はものいひたげに、もぢもぢとしてやがて、
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 あのお母アさん、焼餅たらいふものおくれやはんか。
 エ、焼餅、焼餅といふものではないえ、女子《おなご》の子はお焼きといふものどすへ。けどそれは今内にないさかい、また今度買うて上げますわ。
 いいえ私は知つてます、お焼きがあると皆ンながいわはりました。
 誰れがへ。
 学校で隣のお竹さんや、向ひのお梅さんが、あんたとこにはお父ツさんが、毎日焼いてはるさかい、たんと焼餅があるやろ、いんだらお母アはんにお貰ひて。
 ええそんな事をかへ。
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 お糸は口惜しく情なく、さては夫の嫉妬《りんき》深き事、疾《と》くより近所の噂にも立ちて、親の話小
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