年七歳なるが学校より帰り来り、
[#ここから1字下げ]
ヘイお母アさんただ今。
[#ここで字下げ終わり]
おとなしく手をつかゆるを、お糸は見て淋しげなる笑ひを漏らし、
[#ここから1字下げ]
おおえらい早かつたなア、もうお昼上りかへ。
ヘイお昼どす。
そんなら松にさういうて、早うお飯喰べさせてお貰ひ、お母アさんも今行くさかい。
[#ここで字下げ終わり]
お駒はものいひたげに、もぢもぢとしてやがて、
[#ここから1字下げ]
あのお母アさん、焼餅たらいふものおくれやはんか。
エ、焼餅、焼餅といふものではないえ、女子《おなご》の子はお焼きといふものどすへ。けどそれは今内にないさかい、また今度買うて上げますわ。
いいえ私は知つてます、お焼きがあると皆ンながいわはりました。
誰れがへ。
学校で隣のお竹さんや、向ひのお梅さんが、あんたとこにはお父ツさんが、毎日焼いてはるさかい、たんと焼餅があるやろ、いんだらお母アはんにお貰ひて。
ええそんな事をかへ。
[#ここで字下げ終わり]
お糸は口惜しく情なく、さては夫の嫉妬《りんき》深き事、疾《と》くより近所の噂にも立ちて、親の話小
前へ
次へ
全45ページ中17ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
清水 紫琴 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング