所働き。お守り役も御自身に、乳母と老媼はお払筥《はらひばこ》、人二人減らすとして見ると、よし十何円の奥様のお月給それは皆目這入らぬとしたところで、お身のまはりの張も要らず、御交際費も皆無となる、その上にもまた世帯の費用、主婦自分が立働くと、下婢にさすとは二割の相違。それやこれやを差引けば、さうした方が遙か利方と。苦肉の一策いひにくさうに、打明けての御談合。奥様とてもこの節の会計、持てあぐみたまふ折からとて、いやいやながらもさう致しまする外はとの御内意に、首尾よう御相談纒まりて、速かに学校を御辞職の、それよりは形勢一変、お頭だけは束髪の、奥様が何事ぞ、前垂掛の世話女房、赤様をおんぶして、釜の下焚き付けたまふ事もある。それは覚悟の上ながら、慣れぬ手業の煮たきの失策《しくじり》。お学問とは関係なきを、万々御承知の筈の旦那が、かうして見ればつゆいささか、伎倆なき奥様の、内兜見透したまひてや。お詞さへもいつしかに、どうせいかうせいの下女|待遇《あしらひ》。いかに養はれてゐればとて、そんな筈ではなかりしと、奥様が今日この頃の不平の矢先。旦那様よりまた横柄なる御註文。たびたび異味の、御馳走には恐れる
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