は乳母の手に、虫気もなく育ちたまふ嬉しさに、今日はあなたが早かつたの、明日は私が勝ちまするのと、御帰宅の遅速に、赤様の可愛さ加減、正比例でもするかのやうに、お土産までも競争心、罪のないいさかひ[#「いさかひ」に傍点]に日を暮したまふ程に、ゆく月も来る月も、会計は足らぬがち、これまでには覚えなき、三十日《みそか》の苦労にお気がつき、さても不思議小さき人一人殖えたればとて、この費物《ものいり》の相違はと、お二人ともども細かき算盤置きたまへば、なるほど奥様の御出勤故に、身分不相応なる乳母といふ金喰ひ代物、これで確かに五六円づつの相違はあり、その上出産当時の費用、旧産婆では心許なしと、内務省免許の産婆のちやき[#「ちやき」に傍点]ちやき産科医までも人選びした上、習慣ではあれど古襤褸《ふるぼろ》古綿などは、産褥熱を起こすものと、これも消毒したガーゼ。万事病院もどきのお手当の済口は、毎月の収入で償ふてゆく筈なりし、それやこれやでこの仕儀と。ここ一番改革の必要に迫られて、旦那様はその夜一夜、まんじりともしたまはず。考へ通したる挙句の果てが、あるべき事か勿躰なや、学者の奥様を潰しものに、これからはお台
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