も、我に疚《やま》しきところなければと、お二方は澄ましたもの。両方から様づけの御相談も奇麗に調《ととの》ひ、日曜毎には上野浅草、手を携へて御散歩のつど、今日はあなたのお奢りになされませ、次の日曜には私がと、いつさい議論はぬきにしての同権交際。これで一生が済むものなれば、女の子を生んだとて、さう案じたものではない。孫にも何か職業をと、老媼も大きに発明したほどの仕儀。去年の暮には、旦那様から、奥様へは吾妻コート、奥様からは旦那様へ、銀側時計のお贈り物。この暮は何がよからむと、春早々から、暮れゆく年の、人の苦労も御存ぢなきかの嬉しき御思案。真理に合ひし御算段も、がらり[#「がらり」に傍点]と外れし奥様の御懐妊。初夏の頃より酸きもの好みしたまひて、十二月の末といふには、お二方へ平等のお贈りもの、天からも降らず、地よりも湧かねど、奥様のお腹より、おぎやあおぎやあと飛出せしお子宝。そのお喜びにお歳暮《としくれ》のとりやり[#「とりやり」に傍点]も立消えとなりしその代はり、おしめ[#「おしめ」に傍点]の詮索、玩具の買ひ入れ、御余念もなきその内に、年も明けお枕直しも済みて、奥様は従前の通り御出勤。赤様
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