へられて、しばしも遅疑せむ心とてはなけれど。思へばあやしの縁かも、我が子にあらぬ人の子を、その双親の手に返すが、何となく覚束なきやうにも思はれて。とかくに手離し難かるを、やうやうに思ひあきらめて、仰せに従ふべきよしいひしに、中川様はいひ甲斐ありといたく喜びたまへて、なほもくれぐれ我を慰めたまへたる末、やがてその和子を連れましぬ。
かくてよりは我いつそう身の味気なさ覚へて、何に生きながらえむ玉の緒ぞ。絶えなば絶えね、断《き》れば断れよ、今はつれなき人の果てを見るべき命にもあらねば、我が身の果てをその人に見するをせめての慰めにと、慰めがたき日を過ごししに。またも中川様の来たまへしかば、これに少しは人心地つきたれど。見れば曩《さき》の日には似ぬ力なきお顔色|訝《いぶか》しきに。かなたはまた我のしばしがほどに、いたく衰へ果てたる事よと、覚束なげに見やりたまひながら。しばし何をか考へたまふ御様子なりしが、やがていと沈みたるお声にて。病人のそなたに、かかる事聞かせたくはなけれど、そなたの病もそれ故と思へば、我はそなたの心の迷ひを解かむ為、何もかも打ち出でむ、さても浅木は見下げ果てし男かな、かくま
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