様少し落ちつきたまへて、さては心安しいづれに後刻その手当せむなれど、先づそなたに問はで叶はぬ事のあり。きのふは我障る事ありて、浅木の方へは得行かざりしなれど、今はその帰途なり。さても女子は恐ろしや、それはそなたの子でないさうなと、先を越されて恥ろふ我を、さもこそと中川様は見遣りたまへて、その事のよしあしは、いはでもそなたの知れるならむ。とにかくその子は、浅木の方へ返すがよし。さらでは我も浅木への忠告、七分の弱味に何事も、いひ出で難きをいかがはせむ。実は我一途なる心より、重ねて聞くにも及ばぬ事と、そこを確かめで直ぐに行きしが我の誤り、あくまで罪を悔ひさせむと、思ひの外にかなたより、その子の事を口実に、そなたの罪を鳴らされて、詮なく今日は帰りしなり。さはいへ彼にも疚しきところあるなれば、今日まで人にも秘せしなれば、この後とても、事荒立てはすまじけれど、そこへ乗じてさる正なき事をするは、そなたの為に採らざるところ、知らずや今の細君は、その子の事を思ふのあまり、一時は病の床にも就きたりとか。浅木への恨みはとにかくに、母なる人の心の裡も少しは汲みて知れかしと。諭したまふに、身の罪の今更のやうに数
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