神か仏顔、幾たび見ても飽かぬ子の、など我が血をば分けざりしと、涙片手に寐させても、寐られぬ我は夜もすがら、右に左に寐がえりて、思へば不思議人心、顔かたちでは分らねど、かの中川様といふは、それはそれは不骨なお方、かつては我が方に、宿《とま》りゐたまへし事もありしなれど、見るから怖らしさに、かくまで深切なる方様とは知らざりしをかりそめの、媒妁役といふのみに、我をかくまでいたはりたまふお志の嬉しさよ。このお心の半ばにても、今の浅木様に在るぞならば、否々それはいまさら思はむも詮なき事なるを、などいひ甲斐なき我が心にや、それよりもこの子の上は何とせむ、あくまでも包みおふすべきか、否それにては中川様への道立たじ、幸ひ方様は、法律を学びたまふと聞くなれば、ありのままに申し上げてお指図を仰がむか、否それにては先方《さき》へ返せと仰せらるるは知れた事、さあらむ時は何とせむ、今は恨みを返すてふ、心をよそにするとても、どふしてこの子が手離されうと、かにかく思ひ煩ふ内、いつしか夢路に入りけらし。浅木様の中川様に伴はれたまひて、我が枕辺に立ちたまふに、何から怨みいはむとて、身もだえしても声立たぬ、苦しさと、泣く
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