では空しく過ぎしなり。さはいへ我も彼とは同郷の因《ちなみ》、彼の不徳は我が郷の不徳なるを、いかでかはよそに看過ぐすべき。殊に我は媒妁の、関係は免れぬ身の上なれば、篤とその成行き聞き取りたる上、あくまで彼に忠告を試みむと思へしに、ここで逢ひしは自他の幸ひ。さるにてもその子はと、問はれて答のなる身にあらぬを、かなたはこれも早推したまひて、ムム問ふまでもなき浅木の子、馬鹿に似てゐるところが妙なり。かかる有力なる材料ある上は、我は我が友を不義より救ひ、しいてそなたの幸福を回復するも、さまでの難事にはあるまじ。善し我が万事引受けて、都合よく運び得させむに、今の宿所はいづこぞと、他事なくいはれて、恥しさを、忘れしとにはあらねども、たよらむ方もなさけなの、身の入訳を語らむは、この人のみぞと母様の、まちくらしたまへしをも思ひ合はして、とみにも心強うなりつ、さすがに和子の事のみはいひ出でかねたれど、今のあらまし告げまつりしに、さてはいよいよ気の毒なる身の上なりし、さあらむには我も世話ついで、しばし我が心安き方にても、頼み得させむにと、先に立ちて歩みたまふにぞ、心ならねど一二間離れ離れに従ひゆきしに曲り曲
前へ
次へ
全40ページ中32ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
清水 紫琴 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング