しと、思ふに任さぬ身のつまり、牛乳《ちち》買ふ代にも事欠くと、見て取りし梅の、打つて変はりし不愛想、我を婢代はりに使ふさへあるに、果ては我とその夫との間に、あられぬ事のありといふ、心は知れし無理難題、我を追出す工夫ぞと心付いては居るにも居られず、昼はさすがに人眼を厭へば、夜に紛れてとぼとぼと、泣く子を背に小風呂敷、前に抱へて出てゆく姿は我さへ背後《うしろ》見らるる心地して、あやにく照れる月影を、隈ある身ぞと除きてゆく恠《あや》しの素振り、なかなか人の眼をひきてや、向ふより来し人の、幾度か我が背けたる横顔を透かし見て、そもじは秋野屋のお幸さんではなかりしかと、いはるる声音に覚えはあれど、かかる姿をいかでかはと、我は知らず顔に過ぎむとせしに、かなたはなほも立寄りて、やはりさうだお幸さんだ、我は中川渡なるを、何とて見忘れたまひしぞ。それにしても今時分、ここらをその姿で、ムム分りしさては浅木君はやはりそなたに搆《かま》はぬな。我もこの頃国より帰り、始めて聞きたる浅木の不埓、我この地に在りしぞならば、さる不徳義はさせまじきを、口惜しき事をしてけりと、思ふのみにてそなたの行末、皆目知れぬに、今日ま
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