をば、彼女に意あるものと察して。予の為にともに、彼女の経歴を説き、目下の境遇をば語り。彼女はとうてい、何人《なんぴと》とも、婚姻をなすまじきものなりといへり。予は彼女が、婚姻をなすべき人にてあると否とは。もとより予が彼女を、恋ふるにおいて差し支へなき事なれば。予はこれが為に、別に失意をもなさず。されども、その婚姻をなさずといへる原因は。彼女がかつて、清からぬ男子によりて、その性情を損なはれ。それより一般の男子について、全く絶望せるが故なりといへることを聞き。予はなほなほもつて、この一身を、彼女の為に、捧げむとは、決意せしなり。されども予は、元来恋には無経験なるものなれば。いかにせば彼女が、身辺を纒へる漠々たる愁雲を、払ひ得らるるか。またいかにせば彼女が、胸を塞げる、憂いを開くの鍵となり得らるべきか。これらの事については、予は実に三尺の童子が。宇宙間の大問題に関して、問を発せられたるよりも、なほかつ困難に思ふなり。先づ試みに彼女に対して、あらゆる力を致すの、一親友たらしめよと、いひ送らむか。否彼女は、容易に男子に、信を措かざるべければ。予が未だ彼女に知られざるに先だち、さる事を、いひ送り
前へ 次へ
全8ページ中6ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
清水 紫琴 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング