たらむには、かへつて彼女の、憂いを添ふるの、種子とならむも知るべからず。さらば予はむしろ、予が親友の中《うち》につきて、もつとも性情の優しき人を選み。しかして彼女を、慰むるの友とならしむべきか。否々これも覚束《おぼつか》なし。たとひその性質は、いかに、優しくとも。彼女を熱愛せざる者にてはとうてい彼女の心を、和らぐることあたはざるべし。ああ予は彼女に、高潔なる愛情を有する点においては、恐らく予に及ぶ者なかるべしと、自らも信ずれど、ただ予が元来武骨者にして、その方法を知らざるに苦しむなり、予が数日来の懊悩煩悶は、即ちこれに外ならず。なほ一言すれば、予は彼女をば。失望の中に救ひて、多望円満の人とならしめずんば、とうてい心を。安んずることあたはざるなり。この点より思へば、予はむしろ、予が恋愛の、かの人において、成就すると、否とを問はず。誰人にてもあれ、予よりも数等優れる人が出で来りて。予の如くに、彼女を愛しくれ、しかして彼女をして、恋愛を感ずるの、幸福なる人とならしめ得なむには。予は予なるこの一肉塊が、彼女の前に、無益なる供へ物となりて、いたづらに滅尽し去ることあらむも、予は少しも、遺憾とは思
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