の資質は、どことなく顕はれ、予は先づこれに対して、敬といふ念起こりたり。しかして平素種々の関係よりして。婦人を土芥視し、もしくは、悪魔視しいたりし予は、彼女の前に、いと小さきものと、なりたるが如き心地し。処女の如く、謹んでうづくまりいたりき。この時よりして、予は実に、一般婦人に対する考へもまた大ひに変わり旧時の予の考へは、大ひに誤れるものなりしことを悟りたるが。それにしても、彼女の資質、少しく異様なるやうに思はれ。一層深く、これを探究したしとの念起こりたり。ここにおいてか、事に托して友人に乞ひ。なほ一二回彼女に接見したり。その間言一言を交へ、語一語を加ふるに及んで。予が最初の、探究の念はもちろん。予が本質さへ、全くいづれへか消え失せて、予はかへつて予が全心を、彼女の前に捧ぐるものとは、なりしなり。他に何の事情も。何の関係もあることなし。思ふにこれぞ世にいはゆる恋なるか。ああ恋なりああ恋なり恋に相違なし。予は確かに恋をなせるなり。テモ不思議、偏屈予の如きものも、遂に恋をなすの時機に、遭逢したるか。さても恋なり、恋としても、彼女は、実に不可思議の力を有するなり。さらば、その恋の原因は、なん
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