霧消す。これそもそも何の理由なるや、予その所以を知らざるなり。かつて聞く、昔泰西の学者の間に行なはれたる説に、知識の石(ストーン、オフ、ウイスドム)または、聖哲の石(フイロソフアース、ストーン)てふ宝石ありて、この宝石は、鉛を銀にし、銅を金にし、またよく不老不死の、仙薬を製し得るの、怪力ありとて、遂にその石の探求に、終生を擲《なげう》ちたるの学者もありきと、もし彼女は、これら宝石の類にはあらざるか。予は深くこれを疑ふ。しかれどもかの宝石の説は、ただこれ学説上の、妄想迷信より出でたるものにして、一人《いちにん》もこれを発見したるものなかりしといへば。今日かくの如きもののあるべき筈はなし。さらばいよいよ彼女の怪力は、不可思議なり。彼が予の特性を奪ひ、予の本質を変じたるの事実は、昭々として数日以来予の眼に映ずるところ予は実にその原因を、講究せざるべからざるなり。よつて予は先づ彼女と始めて、相見たりし時に遡《さかのぼ》りて、それより、順序を追ふて、考ふべし。予が最初彼女と、友人の宅において出会ひし時は、わづかに一二語を交へたりしのみ。別段親密に、談話をなせしといふにはあらざりしかど、彼女が非凡
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