なものさネ。たまにやア一ペイお上がんなさいと申し上げたいんだけれど、下界は嫌だと見向きもなさらないところがえれえやハハハハ。いやえれえといへば今晩の嬶アの権幕もまたえれえ事だらうよ。あれでももとはまんざら話せねえ女でもなかつたんだけれど、世帯を持つて小児が出来てからといふものは、そこは女の浅ましさだネ。お前さんはなる[#「なる」に傍点]口だけに、気が捌けてて嬉しいよと、あいつめ背中を叩きアがつた事を忘れてサ、そんなに飲んぢやいけない、あんなに酔つちやア済まねえと、毎日日にちおれを意地めやアがるんだ。真実に女子といふものは仕方のないものさネ。まんざら素白《しろ》い素生でもねえ僻《くせ》に、男の身躰は、酒で持つんだてえ事を、忘れやアがつたから、まるツきり話せねえや。オツト危険《あぶ》ねえ、すんでの事溝へ落つこちるところだつけ。
空を仰ぎて
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ハハハハお月様が笑つてごさらア、あんまりおれが夢中になつて愚痴をこぼすもんだから。
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独言《ひとりごち》つつ月もあかしの町外れを、一歩は高く一歩は低く、ひよろりひよろりと来かかる男、煮染めたやうな豆絞
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