えどころもない行衛。何でも高利の貸仆れに、我も仆れて、逃げたが定か。それともにも、今尾様から、こつそりどこぞに、貢いででも居らるる事か。噂はさまざま、先こそ知れね、隠居所が確かにあると、申す事でござんする。でも区役所は、失踪と相場も極まつて、表向き、通路の出来ぬ、親持つほどの御身分を、お忘れなされた僣上沙汰。栄耀の餅の皮は、あのくつきりと美麗しいお顔に粘《へば》り付いたやら。千枚張の鉄面《あつかま》しい、お鬱ぎ顔が分らぬと、女中達まで、とりとりの噂は聞いてゐましたが。主人の口から申させれば、まさかさうでもあるまいがと、今に未練の冒頭《まへおき》を、残してゐるだけ、憎らしうござんする。ほほほま際どいところで、やきやきとあそばすだけ、あなたはまだもお畳の新しいと申すもの。私なぞは、土足のままに踏み暴《あら》さるる板場の扱ひ、嫉妬《やく》なとはさておいて、うつかりすれば、今の間も、この身躰が焚きものに、つぶ[#「つぶ」に傍点]されでもせぬ事かと、腹が立つそのたび毎、羨ましい種子にもしました、あの奥様の御身分も、今の委しいお話では、あんまりどつといたしませぬ。それではやつぱり御見込通り、どれ程
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