の悪口を、主人の口から聞いた時、それ見た事かと、可笑《をかし》さを、わざとこちから誉め返し、誉めた口からいはせたは、浮気男によい懲らしめでござんする。ほほほまお人の悪い、してその悪口と仰しやるは。さ、その事でござんする。あの奥様のお里といふは、秋田様とは表向き、世間を繕らふ仮の親、真実《まこと》は高利も、わづかな資本《もとで》の金貸業。それも父御は独りもの、偏屈か、ただしまた廻らぬ世帯の窮屈か。婢も置かぬ男手に、御飯も炊けば、金も貸す。かすかすの利息をば、あの人に入れ揚げて、何とやらいふ女学校へ、稚い時から預け切り、廿歳の時に卒業を、そのまま其校《そこ》に、教師三昧せられたも、思へば硝子の窓入娘、透き徹るほど美麗しい、容貌の置き場が置き場ゆゑ。くるくる巻の束髪には、惜しい姿と、今尾様、どこを廻つた手蔓やら。秋田様の嬢様とて、御婚礼のその時は、なるほど立派でござんした。おほかたそれも拵え取りの、金に飽かした衣裳なり、人形もさすが、あれほどの、御|人品《ひとがら》ゆゑその当座は、あつと人眼を眩ませた、それまではよかつたが。実父は間もなくどこへやら、引越しといふ噂も、底を探れば、逃水の、捉ま
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