不運違ふものかと、不美貌《ぶきりよう》に生まれた身躰の親をまで、つくづくと怨みまする。それは私も同じ事、したがお聞きあそばせや。満つれば欠くる鼻位、低いところで不具ではなし。人をのろはぬ証拠の穴、二ツ揃ふてゐるからは、それでも鼻を、よも人が穴とばかりは申すまい。それがむつくり小高うて、栄耀に凝つた細工もの、手で拵らえたか何ぞのやうに、器用に出来たその尖頭《さき》には、得てして、天狗が引掛り、果ては世上の笑柄《わらひもの》、美貌《きりよう》が仇でござんする。近い例《ためし》は今尾の奥様、押出しはよし、容貌《きりよう》はよし、御教育もあるとやら。やらやら尽くしで殿達は、近来の大騒ぎ。何でもあんな細君《おくさん》をと、独身《ひとり》ものはなほの事。私といふものある前で、主人《やど》までが品評め。お前なんぞはそちらの隅にと、いはぬばかりの誉め方を、致した事もござんすが。誉れは、結句譏りの基因《もと》。気になるからの詮索を、どなたがなさつたものじややら。今は知らぬものもない、お里方の根を洗へば、梢に咲いた花ばかり、美麗しう見えたとて、これもひよんなものじやのと。手に取れぬだけ、皆様が、思ひ切つて
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