れのものよと、思はれて、暮せるだけがまだしもの本望とは、私が愚痴は勝手にせよ。廿余年の御高恩、私ばかりは人並のものになれよと御養育、海山の御慈愛も、親はさうしたものにせよ。子は子の情もあるものを。このままにお傍離れて帰宅《かへ》つた上、もしその素性構はぬといはるるならば私とて、無理に離れる気も抜けやう。さうした時は夫へ不貞、あなたには、かねてよりの御気性。私ばかりの仕合はせを御本意の、親でない子でないと、お便りも絶えての後は御孝行も、どうしてしやう様もない、それが本意でござんしよかと。いはれぬ心の数々を、思ひ残してもじもじする清子をはつたと太一は睨み。まだ行かぬ馬鹿めが。おれが病気が気に掛かるか。定命ならば娘の手で介抱を受けたからとて、このおれの寿命が一日延びやうか。ひとまづ帰宅つてともかくの話を極めて来るまでは、かねて娘でないそなた。たとへ一椀半杯の白湯も汲ませて飲むおれか。そちが介抱しやうとて、こちらが受けぬ介抱に、逗留して何になる。嘉平をはじめ、村のもの、深切な中なればこそ、帰りもした。それをまだ気遣ふて、うかうかする半|※[#「日+向」、第3水準1−85−25]《とき》は、この
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