に、どういふ事もあらうかと、用心に用心して、供をも連れず参りました上からは。さう早速にこの身分の漏れる事もござんすまい。ともかく四五日御介抱申し上げてのその上に、これならば安心の御容体が見えての事に致しまするも、さほど遅うはござんすまいと。口には平気を装へど。思へばこれが一年か二年に足らぬ契りでも。普通の夫婦を見るやうに、人手任せの気も知らず。出雲の神様、はあこれが、私の夫か妻かとて。合はせられてのその上に、無理に合はせた縁ではなく。他人で逢ふて、贔負眼も、ない間にちやんと見ておいて、許し合ふた上からは。添ふたが一日半時でも、身体ばかりが双棲の、一生涯を連添ふて、生涯気心も知らずにしまふ、雛様の夫婦とは違ふもの。千万年の馴染にも、まさると思ふその中で。夢見たやうな身の素性、これだけは、私も存じませなんだ堪忍してと。打ちつけに、我から破れる相談が出来やうものか。おめおめと、良人に顔が合はせる程なら、離縁との、決心も要らぬ事。それよりも合はせぬ顔を、このまま此村《ここ》に御介抱。一生を、これにて果てるつもりにして、手紙だけにもそのよしを、通じて置かば、二度再び、夫の顔は見ぬとても、生涯を憐
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