人金貸|世渡《とせい》も、手を広げず、人交際もせぬ理由《わけ》は。ついした談話《はなし》の、緒《いとぐち》に、身柄を人に悟られまい、無益《むだ》な金を使用《つか》ふまいと、その用心に、なにもかも、一心一手に蔵《おさ》めて置き。天晴れの男に添はせむその時に、拭えぬ曇りは是非もなし。諸芸はもとより、衣類や調度、金で買はれる光だけ、せめては添えてやらふものと、一心込めた親心。廿余年を、何楽しみの偏人生活、友にも、血にも、関係《かかはり》はたへた一人のそなたまで、傍には置かず、すげなうしたは。どうで嫁入りさする時、親と名告らぬつもりの身体、初手から離れてゐるがまし[#「まし」に傍点]と。可愛さを、人並の可愛さにはせぬ心の錠。三年五年はともかくも、廿年をその癖は、これが真実の偏人に、ならずに居らるるものかいやい。さこそは無情《すげな》い父様と、不審も立つた事であろ。泣きも怨みもした顔を、見ぬとて見えぬ親の眼が、偏人は偏人の、泣きやうもした廿年。その甲斐ありて、ありとある、男の中にも、男との、その名ばかりか、ただ一度逢ふても知れる心ばえ。器量はおれが鑒識《めがね》にも過ぎた男に渡したからは、もう用
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