の、実を結んだは、そなたの一粒。見るにつけても思ひ出す、親様はさぞ心外。いかに若気の誤りも、一生此村の芥になれと、勘当はなさるまい。人間の屑、男子の屑、親兄弟を笑はせて、生まれた子まで屑にする、おれは所詮仕方もなけれど。穢多の唱えも、平民の時節になつて生まれた子を、何の遠慮に一生涯、此村に育ててよいものぞ。先祖の遺体、せめてはこれを、人並々の世に出して、償ひをせふものと。思ふ心を悟りたる、妻も同意は、乳呑子の、そなたを置いて病死の際。どふぞこの子が穢れた血を、あなたのお手で洗ふて下され。河井の家名はどうでもよい、家庫《いへくら》はこの子のもの。素人を父様に持つたお蔭でこの子まで、清まる事なら先祖とて、何の否やを申しませふ。この子の祖父祖母二人共、きつと冥途で喜ぶ顔、私は今から眼に見えて、嬉しふ死んで行きますると。につと笑ふたその顔は、生まれに似合はぬ、美麗しい心のものであつたぞよ。そこでおれが心も決定《きま》り、家庫を金銭《かね》にして、東京へ引越したその後は。我が出所をば知られじと、籍も移して家も買ひ、身持律義にしてゐたれば。誰穢多村の出身と、知らぬを幸ひ、学校へそなたを預けて。我一
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