休めてくれ。よ嘉平貴様も好きで出た角力、共々に聞いてくれ。湯なり水なり欠け椀に一杯注いでくれぬかと、しづかに咽喉を霑《うるほ》しぬ。
下の二
あ残念や、この太一は、京も中京さる町で、人に知られし医師の子が、稚いから継母に、かかる身の習ひとて、おれは知らねど僻み性。下女下男まで弟御には似ぬ兄様よと軽蔑《けな》すのも、やつぱり継母の指図かと、思へば万事おもしろからず。好きで書物の一冊は、読む尻から、弟や継母の小声が気になつて。ええも止せ止せ、家に居て、こんな真似しやうより、外で少しは気晴しと、あてもなく出歩く内。悪い友には誘はれ易く、茶屋が二階の朝酒に、舌鼓打つその頃は、菓子料や薬礼も、大方おれが袂のもの。父が手許の金までも、持出したを見付けられ、もう今日限り勘当と父親の立腹も、われ悪いとは少しも思はず。おほかたこれも弟に、家継がせむ継母の讒言、欺されて無慈悲の父親怨めししと。勿体なや親心の今で思へば血の涙、勘当の意気張を、どの親類にも泣付いて、詫び言いへば済んだもの。おお出て行きませふ、出ませいでか、親のものは子のものを、使ふたからとて、わづかな金に惣領を見替えるほどの親父様
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