の限り養生をさせましてのその上に、御全快にもなるならば。父子《おやこ》二人が身を捧げ、同じ汚れの名にも染む、人の為にも尽くすぞならば。自からなる楽しみの、その中にしもあるべきを、何にこの身を歎くべき。いやまてしばし、一筋の理屈はよしやさりとても。新平の娘を妻にもしたまひし、良人の名折れ、明日よりの、お名の汚れを何とかせむ。知らぬ昔はともかくも、知りてこの身を潔く、たとへば引いて退いたりとも、それに雪《すす》げる御耻辱が。かかる因果の身と知らば、恋しき君を良人には、持つまじきもの、なまなかに、遂げての後に、遂げずなる、恋とは知らで、恋しさを、一日一日に寄せられつ、寄せては返す浦の波、我からわれて別るるを、貞女の道と知るほどの、道理は何故に覚えしぞ。怨めしの父様や。新平ならば新平と、疾くにも明かしたまはむには。身を憚りて、世の中の、わけても名ある御方に、身を任せじを。これだけが、あなたへ不足。その外は新平ばかり継子にする、世間の人が不足ぞやと。口に出してもいひたさを、じつと堪《こ》らえて涙ぐむ、清子が顔を、さもこそと、太一は重き枕を擡げ。泣くなお清、改めていふて聞かす事がある、少しその手を
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