しよる清子が身は、心ならずも、撫でさする、父に劣らぬ憂き思ひ、さてはさうした身分かや。今までさへに里方を、謡はれしもの、この後が、思ひやられて浅ましや。よしこの上は重ねても、良人の家へは帰るまじ。身は新平のそれもよし、貴夫人と囃されて、親に事《つか》えぬそれよりは、新平とても人の子の、道は一ツを立ててこそ、人と生まれし甲斐はあれ。同じ人の子、平民を、など新旧には分ちしぞ。差別なしとは表向き、世の習はしは、新といふ、文字のすべてに喜ばるる、それに引換え、平民の上に冠《かぶ》りし新の字は、あらゆる罪と汚れをば、含めるもの、世の人に誤らるるも理や。昨日までも今日までも、良人《つま》に連添ふ我が身とて、平民主義を上もなき、真理と採りしこの身さへ、身を新平と聞き知りては。道理の外の新しき、汚れに染みし心地もする、我さへにさるものを。まして浮き世の位山、尊きを望む人心、卑《ひく》きはよしや衣と食を、姦淫に仰げばとて、新平ならぬを栄とする、世の人口《ひとびと》に何として、穢多ばかりかは、人口の心の汚れ、それこそは、実に穢多なりと質《ただ》さるべき。よしそれとても、今日よりは、ここを我が身の死に処。心
前へ 次へ
全41ページ中28ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
清水 紫琴 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング