はさうでもあらうが、来たからは詮方がない。今日一日を打解けて、逢ふたからとて、このおれが、娘が男の名をいはずば。お前の娘と近所へ知れても、どこの何といふ素人に拾はれたとも知れずに済む。麁相《そそう》をした上、口賢ういふではないが、よ太一。天照大神八幡宮、春日明神三社を掛けて、誓ひを立てる。嬶はおろか、死ぬまでも、口から外へ出しはせぬ。安心して逢ふてやれ。なお清坊、そじやないか。お前はとんと知るまいが、おれは嘉平といふ太鼓屋、今年四十歳を出過ぎもの。お手のものだけ廿歳の頃、でんでん太鼓でお前が誕生、祝ふてやつた事もある。その時の稚な顔、これ程の女子になるとは夢じやてな。今の身分がどうであれ、我かおれかがこの村の、通り詞じや。はははは失礼のはつれいのと、詞咎めをせまいぞと。囁く際も内外に、心を配るは立聞きを、おのれに懲りて見張番。嘉平が立つ居つするを。じろりと太一は見る眼の憂さ。坐れ嘉平、今更それが何になる、とぼけた真似をするないやい。戸障子を塞いだら、世間の口が塞げるか。馬鹿めこれがどうなるぞと。怒りの声も、身の疲れ、枕抱えて吐く息の、深くも心痛むるを。お辛度からう、撫でさせてと、怖々さ
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