一書生としての、栄誉は更に大なる日に、そなたと結婚したならば、よし大臣が総理でも、そなたと乃公の関係に、何の変はりを見る事ぞ。そなたも春衛の妻として、世に立つからは、ぐつと気を大きくして、自ら許すところを守り、あくまで世俗に反抗して。かの閨閥に依頼する無腸男子、持参にする横着婦人、この二ツをば、社会から駆逐する、大決心は持てない事か。あはは、やはり柳は柳のそなたに、無理な重荷は勧めまい。だがせめて自分だけなりと、つまらぬ事を気に掛けぬ、自信は持つて貰ひたいと、噛んで含めし言の葉に、清子は何の答《いらへ》はなくて、熱き涙を夫の膝に、月も雲間を漏れ出でて、二人が中のいつまでも、かかれかしとぞ輝きぬ。春衛は妻が掛念の種子の、解けても見えしを喜びて。分つたらばそれでよい。分らぬ筈のそなたでなけれど、さういふ事が気に掛かるも、つまりは身体の虚弱《よわい》から、ともかく医師に掛かるがよい。くどくいふではなけれども。全体この乃公は、最初秋田を里にといふ事から、はなはだ不本意であつたのなれど。そなたの父御が是非ともに、誰かの養女分にもせずは、自分からは縁付けぬと、たつての主張に、余儀なくも、その意に任
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