と、人も沈黙《だま》つておりますれど。殿方よりは夫人《おくがた》の、身分|貴《たか》いが流行りまする、当節柄の人気には、秋田様が真実の里方でない事を、人も知つて、とやかくの噂を致してゐるとやら。うるさい事と思ふにつけ、身の不束が数えられ、これより後のお名折になるまいものかと、何とやら、すまぬ心が致しますると、幽《かす》かにいふを打消して。ははは馬鹿な、そなたの事なら今少し、理屈立つた心配かと、思ひの外の拍子抜け。そなたはいつの間、どうした事で、さうまで主義が替はりしぞ。譬喩《たとへ》に引くも異なものなれど、いはゆる明治の元老が、どの様な夫人を持つて、それがいかに社会から、好遇されてゐるかを知らぬ、田舎ものの、寐言ならば、いざ知らず。都会に育つて、見聞も狭からず。その上天爵人爵の、差別も知つたそなたとしては、あまりなる、激語ではあるまいか。ましてこの乃公は、不肖ながらも、富貴利達を、目的とする、鄙劣漢《ひれつかん》ではないつもり。良し経綸を施す上から、一時止むなく、入閣はしたところで。それは世俗のいはゆる出世で、乃公が出世といふものか。無位無官でも春衛は、春衛。生涯を平民主義に献身せる、
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