は、お忙しさをよそに見て、一人寝て待つ果報の数々。別してもこの節は、いづかたからも、あなた様のお寿、私までの面目は、勿体ない程でござりまする。でも不似合なこの身体を、どうしたものといひかけて、はつと口籠るその様子に、さてはと春衛は空とぼけ。はての、奇体な事を聞くものだの。不似合とは、何が不似合といふのかの。年齢は、乃公に十歳劣りが、今始まつたといふではなし。この髯面に、美人を配した不釣合、それを今更いふでもなからう。あ、分つた、さては乃公の入閣を、官位望みと、思ひ違えた心から、人爵には感心せぬ、妻に似合はぬ夫よと、歎いてくれるか。あさても、今尾春衛は妻にまで、疑はるる身となつたかと。わざと額に手を加え、ひそかに清子を見遣れるも、なほ奥深き一物を、探らむものと思へるなり。清子は夫の詞のはしはし、いはで砕ける心をも、角々しき生利きぞと、思召されむそれよりは、思ふ心のいくばくを、ほのめかしても見むものと。またしてもその様に、思ひもせぬ事、お調戯《からか》ひあそばすゆゑ、真実の事を申しまする。釣合はぬと申したは、御名誉のあなた様に、私如き不束《ふつつか》もの。それも紳商の娘とか、申すならば格別
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