泣き、口に笑ふが常なれど。いづくいかなる隙間より、涙の漏れて、世の人の譏りの種子とはなりにけむ。王者貴人も、恩愛の涙見せずに居らるる国の、あらばそこにて譏らるべし。何を不足の我が涙、浅い世間の推量は、まだもまし[#「まし」に傍点]かや、術なやと。世の蔭口にも謹しみの笑窪《えくぼ》加へて侍れば。ただおほように行衛知れずといふ事の、気には掛かれる春衛さへ、その当坐こそ慰めたれ。忙しき身の事々に、取紛れては、如才なき、妻に任せし家事心。忘れがちなるこの頃を、その事としも思はねど。やうやく見えし頬の瘠せ、思ふ事でもある事かと、春衛は妻が繊《ほそ》き手の、団扇いぢりをじつと見て。何とせし清子。この節は顔色も善からぬを、病気とは思はぬか。夏は格別、身体を大事に、早速医師に見せてはと、いはれて、はつと元気を見せ。ほほほこの痩せでござりまするか、これは私の生まれ性、夏はいつでも、今年なぞ、まだも肥えておりまする。夏痩せは、医師よりも、牛乳を、精出しておりますれば。秋にはたんと肥えますて、女子のあまり不恰好など、お笑はせ申しましよう。それよりもあなたこそ、この頃はお忙しい上のお忙しさを、お案じ申しており
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