ちは、なんとしてやれぬといつた、いやだといつた。侮蔑《みくび》つて貰ふまいともいへば、心外だともいつた。つまり銀はあくまでも女の請《ねが》ひをはねつけたのであつた。
「お前がそういつて剛情を張つておいでのところを見ると、何《ど》うしてもあたしが彼家《あすこ》へ嫁入《いつ》たのを根にもつて、あたしを呵責《いた》めて泣かして、笑つてくれやうと思つておいでなのにちがひない。そりやあんまり酷《むご》いといふものじやないの、え、銀さん」
と女は途方に暮れて泣くばかりであつた。で、僻《ひが》むだやうな愚痴も並べ出して、
「そんなに慍《おこ》つてばかりいないで、あたしのいふ事もちつたァ聞いておくれな。あたしが彼家《あすこ》へ行つた当座、お前がだんだんいけなくおなりだという噂が、ちらりあたしの耳へ這入つた時、あたしァ、……あたしァまあどんなにかつらかつたらう。いつそ、彼家を出てしまはうかと思つた事も、そりや五度や三度じやなかつたね。あたしだつて人間だもの、まさかお前の心の悟《よ》めていないでもなかつたけれど、そこにア、それ……、かういつちや勿体《もつたい》ないけどまつたくさ。阿父《おとつ》さんてえ人
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