つた事をしておいて、知れずに済むと思ふが間違ひ。証拠はちやんと挙がつてゐらあ。いつまで己れを欺せるもんけい。済まなかつたと、詫ぶれば格別。まだこの上に、しらばつくれりやあ、どうでも生かしちやおかねえぞ』と。無二無三に斬りかくる、刃の下を潜りぬけ『まあ待つて下さんせ。死ぬる生命は、どうでも一ツ、生きやうとは思ひませねど。ない名を付けられ、殺されては、私や成仏出来ぬぞえ。今は夫婦でないにせよ、従兄妹の縁は遁れぬ中。無理往生をさせるのが、お前の手柄じやござんすまい。事情《わけ》を聞いたその上で、死ぬるものなら、死にませう。尋常に手を合はさせて、殺すがせめての功徳じやないか。ゑゑ気の短い人ではある』と。白刃持つ手に触られては、もともと未練充ち充ちし、身体は、ぐんにやり電気にでも、打たれし心地。べつたりと、腰をおろして、太息《といき》吐き『それ程事情が聞きたけりやあ、話すまいものでもないが。一体手前は、あの深井と、いつから懇《ねんごろ》したんだい』『知れた事を聞かしやんす。あれは私が母さんの』『そりやあいはずと知れてゐる。乳兄妹といふんだらふ。がその乳兄妹が、乳兄妹でなくなつたのは、いつからだと
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