で、白露の、情ありける言の葉を。無分別なる置き所と、賤が垣根に生出《おひい》でし、その身をいとど怨みしなるべし。

   第九回

 もしお園様え、今日は浅草の年の市、まだ暮れたばかりでござんすほどに。私どももこれから下女を連れて参る筈、留守は主翁《あるじ》が致しまする。あなた様も、是非にお出でなされませぬかと。澄が帰りしその跡へ、太田の妻の入来るに。今日はわけてのもの思ひ、そこらではないものをと、いひたい顔を、色にも見せず。愛想よく出迎えて『それはそれは御深切さまに、有難うござりまする。お供をいたしたいはやまやまなれど。今日はちと、気分が勝れませぬゆゑ、せつかくながら、参られさうにもござりませぬ。それよりは、お帰りのその上で、お話を承るが、何よりの楽しみ。お留守は私が気を注けませう。御ゆつくりとお越しなされて』といふを押さえて『さあそれゆゑ、なほの事お誘ひ申すのでござりまする。御気分が悪いと仰しやるも、御病気といふではなし。お気が塞ぎまするからの事なれば。賑やかな処を御覧なされたら、ずんとお気が紛れませう。ただ今も深井様、お帰りがけにお寄りあそばしまして。どうもあなたが、お気重さうに
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