介申すと。戯れて、笑はすつもりも、御念が入つては。苦笑さへ出来かぬる、この場の始末に、一坐の面々、顔見合はせて、笑止がる。中にも上坐の某が。これこれ君はどうしたものだ。またまた例の悪酔か。それも好けれど、その様に、人身攻撃に渉つては、一坐の治安、捨ててはおけぬ。衆議に問ふて、予戒令。退去さするといふ筈ながら。酔ふた酒なら、醒めもせう。醒めての上の宣告と、ここは我等が預かるから。まあ深井君坐したまへ。僕が代はつて謝罪いふ。先づ罰杯をくれたまへ、これ女ども酌せぬか。何をきよろきよろ馬鹿吉めが、山の手芸者と笑はれな。腕の限りを見てやらふ。小蝶は踊れ、駒はひけ。追付け春の柳屋糸めも、年末の吉例に、五色の息を吐かしてやらふと。さすがは老功老武者の、持ち直したる一座の興。この図を外さず、全隊が総進撃と出掛けやう。部署を極めるは、野暮の極。思ひ思ひの方面へ、突貫せよと、異口同音。散会ぞとは、いはれぬところへ、虚勢を張つて、途から、そつと、逃げて帰ぬ、粋の上ゆく粋あれど。澄は日頃|金満《かねもち》の、細君故の、逃げ足を、知つたか、知つた、遁がすまい、よし来た合点、妙々と。いひ合はさねど、四五人が、ぐる
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