と。お園の辞退を引取りて『またしてもそんな事、おむづかしい御挨拶は、もうもう止しになされませ。先夜の今日日《けふび》、お身体も、まだすつきりとはなさるまい。お気遣ひは何よりお毒、当分お任せなされませ。深井様には、いろいろと、御恩に預かる私夫婦。役に立たずの老人が、未だに御用勤まりまするも、やはりお庇陰《かげ》と申すもの。何御遠慮に及びましよ。かうしてお世話致すからは、失礼ながら、私どもは、他人様とは思ひませぬ。娘を一人設けたやうで、どんなに嬉しふござりませう。それにあなたの母御《おやご》様は、継《まま》しい中のあなた様を、この上もないお憎しみ。死なふとまでの御覚悟も、どふやらそんな御事からと、あの晩深井様からあらましは、承つてをりまする。及ばずながらこの後は、私夫婦と、申すほどのお役には立ちませねど。歴然《れつき》としたお従兄の、深井様もいらせられまする。必ず必ず御苦労はあそばしますな。ほほ私とした事が、ついお話に身が入りて、御飯のお邪魔をいたしました。さあさあ早う召上がれ。そして御飯が済みましたらば、お髪《ぐし》をお上げなされませぬか。お湯も沸《わか》してござりまする。あなたのお年齢
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