んな、そのわけの分らない事をいはないで、いふ事を聞くが宜しいツ、今更どうなるもんか、お母《つか》さんに話してあるから、よく聞くが宜しい」ツて、ポイと立つて、どこへか行つてしまいました。あとで母はしみじみと私に申し聞かせました、「お父さんの御性分として、あの様に仰しやつては、滅多にあとへはおひきなさるまい、殊にこの度の先はよほどお父さまにもお気に召した様子、仲人もかの松村氏なり、必ず為《ため》悪《あ》しくは計らふまじ、これほどの履歴もあり、これ程までの学問もあるとの事、たやすく得られる縁談ではないほどに……そして、女子《おなご》といふものは、よい加減の時分に片付かないでは、とうとうよい先を見失つてしまふもんだから……」と、遂にはおろおろ声になつて説き諭しました。私もただ今ならば、なかなかこれらの事に得心は致しませんが、その時はほんのおぼこ娘であつて、そしてまたとても一度はどこへか遣らるものと覚悟してをりましたから、心弱くもうけひくとはなしに、うけひきました。いまさら思へば、私はなぜこの時に、も少し手強く断らなかつたかと、我ながらも不思議な様に思ひます。それから、母は、見合ひの事をいひ出し
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