まして、明後日《あさつて》都合がよくばと、先方からの申込み、善は急げだから、お前もそのつもりで、明日は髪をも結ひ、着物や襟の取合はせなども考へて、おくがよかろふと申しました。なれども、私はこの時、何と申して宜しいやら分りませぬから、ただハイと申しましたものの、その後我が部屋へ帰りまし、つくづくと考へて見ますれば、既に九分九厘まで父が極めた結婚、見合ひを致した上で、嫌と申したところがその申し条の立ツ筈もなく、ただ恥しき思ひをして、先方に顔を見らるるばかりなるは、実《まこと》にどうもつまらないと思ひましたから、わざと片意地に見合ひをする事は嫌ですと、母に申し張りました。今から思へば、これもまた馬鹿なことで、実に私の失策でした。けれども、また退いて考へますれば、私は幼《いとけな》き時から、学校の友達か、親戚の外は、滅多に人に逢つた事はござひませず、父の客などが参りました時なども、たまたま私が玄関などにうろついてをりますと、いつも母がそれお人がいらしツた、はやく陰《かく》れよ、それそちらへと、納戸へ逐ひ遣らるるが習はしとなつておりましたから、人を見る目などはなかなかもつておりませんでした。です
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