ましたか、ただしはかねて承知致してをりましたものか、何とも申してくれませんで、ただ心配そうに私の顔を眺め、早くハイと申し上げよといはぬばかりに、眼顔で知らせてをりました。私はかく両方から柔に剛に睨《にら》まれ、何と申して宜しきやら分らず、殊に常からあまり心易くはなき父、誠に当惑致しましたが、終《つい》に一生懸命で、震ふ唇を噛みしめて、「何分まだ勉強が足りませぬから、今少し御猶予を」と、半ばいはせず、父はピカリとしたる眼《まなこ》にて、私を睨み、「何ッ勉強が足りない? と、馬鹿な事をいふッ、普通《ひととおり》の勉強はさせたでないかッ? 何が不足? 何が気に喰はぬ? 我儘者めが」。と鋭くもいひ放ちました。母は悪いことをと申す面持にて、私を見遣りましたが、私はさる了見で申しました事ではありませぬといひ訳致さんにも、とみには口へ出ず、やうやくにして、また、「どうか私は、東京の女子師範学校へでも参りまして」といはむとせしに、これもまた半途にて父に遮られ、「何ツ、師範学校、フウン、小学校の教師になつて、それからどうするチユウんだ、一生独りで遣り通すといふ事は容易に出来るもんじやアないツテ、その、そ
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