から、も少し見合はせましても……と、父に申してくれましたが、十八といふ年の正月になつた時は、もうもう、母も、私の為に弁護の地位には立つてくれませんでした。そして父も、この時はもうそろそろ少し腹を立てまして、我儘なことをいふ奴じや、全体おまへの躾が悪いからッて、時々母にまで小言を申す様になりました。かくてある日の事でした、父は私をちよつとと、居間へ呼びますから、何の用かと行つて見ますれば、父は私の座につきますのをまちかねたといふ面持《おももち》にて、断然と結婚の事を申し渡しました。その時の私の驚き、実に思ひ出しても冷汗が出る位です。かねてよりかくのたまはば、こう、こうのたまはば、かくと、いひわけは、どれ程か思案も致してをりましたが、その時のやうに、かくすつかりと断定してこうしろと命令を下されんなどとは、思ひも寄りませんでした。ですから、ただ呆気《あつけ》にとられまして、ただソーツと、父の貌《かほ》を見上げましたが、父は嫌といふなら、いつてみよといはぬばかりの、意気込みでした。しかし母も脇に坐つてをりましたから、何とか申してくれることと信じて、心待ちに待つてをりましたが、母も父の権幕に恐れ
前へ
次へ
全19ページ中6ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
清水 紫琴 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング