しましても、敷居を隔て、手をつかへてでなくては滅多に話などは致しませず、すべて父へのあしらい方が、お客様に接する様でありましたから、私は子供の時から、なぜよそのお父さんは、あんなに心易いのだらうと、よその父子《おやこ》の間柄を、不思議に思ひます位でありました。さように母は父に遠慮ばかり致しておりましたものですからこれにもまた大ひなる感化を受けまして、私はただ何かなしに、婦人の運命は憐れはかないものよとのみ思ひ込んでをりました。けれども、その頃既に幾分かどつかに承知の出来ぬところがありましたものと見へまして、時々は、どうも婦人の運命は誠につまらないが、どうか私は一生人に嫁がないで、気楽に過ごす事は出来ぬ事かと、思ふた事もありました。そう致して、十五六歳の頃でござりましたろふ、しきりに父母は私に結婚を勧めました。それは一度や二度の事ではなく、断つても断つても、不思議に、またかまたかと思ひますほど、ここはどうだ、かしこはどうだと申して、いろいろのさきを勧められました。けれども私はただいやでございますいやでございますの一点張りで、押し通してをりましたが、始めの内こそ、母も何分まだ年が参りません
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